「まぼろしを」
作詞&作曲&編曲 吉田ゐさお
A Cappella 吉田ゐさお
Recording 松岡義昭、吉田ゐさお
Mixing 杉山勇司

1983年の作品です。当時組んでいた「Omit5」というコーラスグループで、一度だけ演奏された、正に「まぼろし」の名曲だ。と、自分で言っておきながら、この「まぼろし」の名曲とは何ぞや?よく聞くフレーズではあるが、果たしてそんな物が存在するのであろうか?を考えて見る。
 こういう話がある、数学の世界では観測者Aが居て初めて測定値が出る。言い替えれば、観測者Aが居なければ測定値は出ることはない、即ち「無」だ。音楽も同じ事が言える。聴取者が居て初めて名曲が生まれる、聴取者が居なければ名曲は生まれることはない。名曲どころか、曲すら存在してなかった事になるのではないだろうか。
 だから我々の仕事は、単に楽曲を作るという事だけじゃなく、ライブ、CD、雑誌、ラジオ、TV等の多くのメディアを通じ 、元々は存在すらしていない楽曲を、存在させて行くということなのだ。そしてその楽曲が、多くの聴取者に届き認知され、初めて名曲の生まれる可能性を持つのである。したがって「名曲」は、最近類「優れた楽曲」と種差「多くの人に認知」によって定義されると言っていいだろう。
 まずこの「あすなろ」と言う傑作を、存在させてくれた多くの聴取者の皆さんに感謝したい。

バックコーラスは5声全て、自分で歌っています。「まぁ俺にゃぁProTools(*1)もあるしっ」なんて、簡単に考えていたんですけど、なにせ歌だけでしょ!?機械でイジっった箇所、バレバレになるんですわ。で、煮つまった挙句「上手に歌うしかない!」という実に当り前の結論に達し、歌の千本ノックなる、体力勝負に出ました。練習本番取り混ぜて、一晩中歌い続けて日に1声。完璧に歌えるまで歌い続ける。「まぼろしを」は4日でオケ完(*2)予定なのに、5声って!?計算あわないでしょ。2声をやっと録り終えた3日目の夜、プレッシャーと体力の限界を感じ、am2:00入院。点滴打って、同日am4:00退院。ふたたびスタジオへ・・・。

(*1)ProTools・・・PCをベースにしたHard Disk Recorder。音のキザミ師にはもってこいの機材。「今日―持ってきてないの?」
(*2)オケ完・・・オーケストラ完全パッケージの略。レコーディングでBack Trackが完成した状態。商業アレンジャーは締切までに、この状態で納品する。「ゑ?もしかして今日―だっけ?」